関節リウマチの治療薬の効果と安全性

関節リウマチの治療薬の効果と安全性について、以下の視点でまとめました。

目次

病態生理に基づいた治療の標的:免疫応答の調節

関節リウマチ(RA)は、自己免疫疾患の一つで、不適切な免疫応答が関節内の慢性的な炎症を引き起こします。この炎症は、関節の腫れ、痛み、機能障害を引き起こし、長期にわたると関節の破壊や変形につながります。免疫応答の調節を標的とする治療薬は、異常な免疫反応を抑え、炎症を減少させることを目的としています。これには、T細胞、B細胞、マクロファージなどの免疫細胞の活性を抑制する薬剤や、炎症を促進するサイトカイン(例:TNF-α、IL-1、IL-6)の活動を阻害する薬剤が含まれます。

T細胞とは

T細胞(Tリンパ球)は、免疫系で重要な役割を果たすリンパ球の一種です。T細胞は、骨髄で生産された後、胸腺で分化・成熟します。T細胞は、細胞表面にT細胞受容体(TCR)を有し、ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)とキラーT細胞(CD8+T細胞)の2つの主要なサブタイプに分かれます。ヘルパーT細胞は抗原提示細胞と協力して免疫応答を促進し、キラーT細胞はウイルス感染細胞やがん細胞を殺傷する細胞性免疫に関与します。T細胞は、免疫応答の調節や異常細胞の排除など、免疫システムの様々な側面で重要な役割を果たしています

ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)は、T細胞の一種であり、細胞表面にCD4というタンパク質を発現することで特徴付けられます。これらの細胞は免疫系において重要な役割を果たし、他の免疫細胞の活性化や免疫応答の調節に関与します。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞から提示された抗原に応答し、サイトカインの産生やB細胞の活性化を促進することで、体液性免疫応答を調節します。また、関節リウマチなどの自己免疫疾患において、ヘルパーT細胞が過剰に活性化することが関与しているため、これらの疾患の治療においてはヘルパーT細胞を標的とする生物学的製剤が使用されることがあります。
キラーT細胞(CD8+T細胞)は、免疫系において重要な役割を果たすT細胞の一種です。キラーT細胞は細胞毒性を持ち、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を直接殺すことができます。具体的には、キラーT細胞は抗原提示細胞によって提示された異物抗原を認識し、それに対する特異的な細胞傷害を行います。この過程は細胞傷害性T細胞免疫として知られており、ウイルス感染やがん細胞の除去に重要な役割を果たしています。

出典:https://www.jst.go.jp/pr/announce/20070601/zu3.html 

B細胞とは

B細胞は、骨髄内の造血幹細胞から派生し、分化・成熟するリンパ球の一種です。B細胞は体内に侵入した病原体を排除するための抗体を作り出し、体液性免疫に関与します。また、B細胞は高親和性抗体を産生し、免疫記憶を形成し、抗原提示細胞としても機能します。一つのB細胞は1種類の抗体しか作れないため、ある病原体が初めて体内に侵入すると、その病原体に対する抗体を作り出します。一度病原体に反応したB細胞は、一部が記憶細胞として体内に長く維持され、次回同じ病原体が侵入した際に迅速な免疫応答を行います。B細胞はリンパ球の一種であり、T細胞と並ぶ免疫系の重要な構成要素です。

マクロファージとは

マクロファージは、直径15〜20μmの比較的大きな細胞で、全身の組織に広く分布しており、自然免疫において重要な役割を担っています。具体的には、体内に入り込んだ細菌やウイルスなどの病原体や異常細胞を排除し、異物を取り込んで処理することから、「体の掃除屋」と呼ばれています。また、マクロファージは免疫系を強化活性化するだけでなく、過剰免疫に対して正常化する「免疫調整機能」を有しており、多くの疾患で効果的な働きをします。さらに、マクロファージは異物を取り込むことでヘルパーT細胞を活性化し、獲得免疫にも関与しています。

造血幹細胞とは

造血幹細胞は、骨髄内に存在し、赤血球、白血球、血小板などの様々な血液細胞に成長する細胞です。これらの細胞は体内での血液再生に重要な役割を果たしており、造血幹細胞移植などの治療法にも利用されています。また、造血幹細胞は自己複製能を持ち、体内での血液再生を維持するために重要です。

出典:造血幹細胞移植とは:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)


出典:造血幹細胞について – セレイドセラピューティクス – 細胞治療(造血幹細胞) (celaidtx.com)

薬剤の種類と作用機序:従来のDMARDsと生物学的DMARDs

抗リウマチ薬とは

関節リウマチの疾患活動性に影響を与える薬の総称です。抗リウマチ薬は免疫担当細胞や免疫物質(サイトカイン)に薬が作用することで骨破壊や関節炎の抑制効果を示しますが疾患を治癒させる薬ではありません。英語では(Disease modifying anti rheumatic drug; DMARD(疾患修飾性抗リウマチ薬))と呼ばれます。いわゆる鎮痛剤は滑膜炎や骨破壊に影響を及ぼしませんので、この中には含まれません。

種類

抗リウマチ薬を作用機序で大きく分けると免疫抑制薬、免疫調節剤、分子標的薬に分けられます。分子標的薬を生物学的製剤とJAK阻害薬に分けることもあります。 これ以外にも2013年にヨーロッパリウマチ学会で提案された分類があります。こちらはまずDMARDを製造法により合成型(sDMARD)と生物学的製剤(bDMARD)に分類し、sDMARDを従来型(csDMARD)と分子標的型(tsDMARD)、bDMARDをオリジナルのもの(boDMARD)とバイオシミラー(bsDMARD)に分けるというものです。例えば関節リウマチの治療で中心的な役割を果たすメトトレキサートはcsDMARDに分類されます。 この分類法は現在の関節リウマチ治療戦略に合致したものと考えられ、日本リウマチ学会の関節リウマチ診療ガイドラインでも使用されています。治療薬の選択に特に制限がなく関節破壊リスクが高くない関節リウマチ患者の初期治療ではcsDMARDを軸に治療を検討します。

従来型(csDMARD)は、病態の進行を遅らせることができる薬剤で、メトトレキサートやスルファサラジンなどがあります。これらの薬剤は、炎症を引き起こす細胞の増殖を抑制し、免疫系の過剰な活性を減少させることで作用しますが、その正確な作用機序は完全には解明されていません。

生物学的製剤(bDMARD)は、特定の炎症メディエーターや免疫細胞を標的とするタンパク質製剤です。例えば、TNF阻害剤は炎症を引き起こす重要なサイトカインであるTNF-αを直接的に阻害し、IL-6受容体抗体はIL-6のシグナル伝達を阻害します。これらは特定の炎症経路をターゲットにするため、従来のDMARDsよりも迅速かつ強力に炎症を抑制する可能性があります。

TNF-αとは

TNF-α(腫瘍壊死因子-α)は、炎症に関与するタンパク質であり、組織の損傷や炎症反応の調節、傷害からの回復に関与しています。また、感染症の病態だけでなく、膠原病やアレルギー疾患にも関連しています。TNF-αは免疫細胞や内皮細胞などから産生され、炎症や感染症への応答として機能します。過剰に放出されると、慢性的な炎症を引き起こす可能性があります。

IL-6とは

IL-6(インターロイキン-6)は、炎症に関与する多機能なサイトカインです。IL-6は多くの疾患モデルを用いて自己免疫疾患を主体とする慢性炎症誘導に関連しており、炎症関連サイトカインとして広く知られています。さらに、IL-6は単球、線維芽細胞、内皮細胞などさまざまな種類の細胞によって産生され、マクロファージ、T細胞、B細胞、肥満細胞、グリア細胞、好酸球などの多くの細胞タイプに刺激を与え、急性相反応、造血、免疫反応を刺激し、急性期タンパク質の合成や骨髄での好中球の産生を刺激し、B細胞の増殖をサポートし、調節性T細胞に対して拮抗的な作用を示すことが知られています。したがって、IL-6は炎症の誘導や調節に重要な役割を果たしています。

出典:https://www.cusabio.com/manage/upload/201906/IL-6-Do_img2.jpg

IL-6受容体抗体とは

IL-6受容体抗体は、IL-6の作用を阻害するための重要な医薬品です。これらの抗体は、IL-6が結合する受容体と相互作用し、炎症性疾患の治療に使用されます。例えば、トシリズマブはIL-6受容体に結合してIL-6のシグナル伝達を阻害し、関節リウマチや全身型若年性特発性関節炎などの疾患に使用されています。これらの抗体は、IL-6によって引き起こされる過剰な炎症反応を抑制することが期待されています。

トシリズマブ(Tocilizumab)とは、インターロイキン6(IL-6)の受容体に対するモノクローナル抗体であり、様々な炎症性疾患の治療に用いられます。IL-6は免疫応答と炎症反応において重要な役割を果たすサイトカインで、トシリズマブはこのIL-6のシグナルを遮断することにより炎症を抑制します。

モノクローナル抗体とは、特定の抗原に対して単一の抗体を作ることができる抗体のことです。通常、モノクローナル抗体は形質細胞と骨髄腫細胞を試験管の中で細胞融合することによって作られます。モノクローナル抗体は、がん細胞など特定の異物に対して結合するため、抗がん剤などの医薬品として利用されています。また、トシリズマブはモノクローナル抗体の一種であり、関節リウマチや多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎などの治療に使用されています。

出典:https://chugai-pharm.jp/contents/ca/027/

参考特許明細書:
(11)【公表番号】特表2023-527059(P2023-527059A)
(43)【公表日】令和5年6月26日(2023.6.26)
(54)【発明の名称】関節リウマチを治療するためのインターロイキン6受容体に対する抗体を含む組成物およびその使用方法

安全性と副作用

治療薬の安全性と副作用は、薬剤選択において重要な考慮事項です。例えば、生物学的DMARDsやJAK阻害剤は、感染症のリスクを高める可能性があります。これは、これらの薬剤が免疫応答を抑制することで、体の感染症に対する防御能力を低下させるためです。また、特定の薬剤は、肝機能障害や血液学的異常を引き起こすこともあります。患者の既往症歴、共存疾患、および使用中の他の薬剤を考慮して、個々の患者にとって最も適した治療薬を選択することが重要です。

JAK阻害剤とは

JAK阻害剤は、関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患の治療に使用される薬剤です。これらの薬剤はJAK(Janus kinase)という酵素の働きを抑えることで、炎症や関節破壊を抑えます。JAK阻害薬は免疫の機能を下げるため、感染症にかかりやすくなる副作用があります。具体的な薬剤としては、トファシチニブやリンヴォックなどが挙げられます。これらの薬剤は、症状の重症度や患者の状態に応じて適切に処方されます。

出典:https://www.jseikei.com/Januskinase-inhibitor/

参考特許明細書:
(11)【公表番号】特表2023-527558(P2023-527558A)
(43)【公表日】令和5年6月29日(2023.6.29)
(54)【発明の名称】関節リウマチのマーカー及び細胞の前兆

治療応答の予測因子

特定の遺伝的マーカーやバイオマーカーが、治療薬の有効性や患者の副作用リスクを予測する手がかりとなる場合があります。例えば、特定のサイトカインの遺伝子多型が、生物学的DMARDsに対する応答性に影響を及ぼすことが示されています。また、疾患活動度や炎症のバイオマーカーが高い患者は、特定の治療薬により良い反応を示す可能性があります。これらの予測因子を活用することで、効果的で安全な治療法を個々の患者に合わせて選択することが可能になります。

バイオマーカーとは?

バイオマーカーは、体内の生物学的プロセスや病気の状態、または薬物の効果を反映する物質です。関節リウマチにおいて、炎症反応を示すバイオマーカー(例:C反応性タンパク質(CRP)やエリスロサイト沈降速度(ESR))は、疾患活動度の評価や治療応答のモニタリングに広く用いられています。さらに、特定の自己抗体(例:リウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体)の存在は、RAの診断に有用であり、疾患の進行や予後の予測因子としても機能します。

遺伝的マーカーの重要性

遺伝的マーカーは、個人の遺伝子配列における特定の変異や多形性であり、RAの発症リスク、疾患の重症度、治療薬に対する反応性などと関連があります。例えば、HLA-DRB1遺伝子の特定の多形性は、RAの発症リスクが高いことと関連しています。これらの遺伝的マーカーの同定は、疾患の早期診断やリスク予測、さらにはパーソナライズドメディシンへの応用に寄与します。

HLAとは

HLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球抗原)は、ヒトの免疫系の重要な部分であり、染色体6上に位置する遺伝子群の複合体です。これらの遺伝子は細胞表面タンパク質をコードし、T細胞受容体に抗原ペプチドを提示する役割を果たしています。HLAは病気の防御、臓器移植拒絶の主要な原因、がんへの保護など、さまざまな役割を果たしています。また、特定のHLAタイプが特定の疾患と関連しており、例えば関節リウマチや他の疾患と強い相関性を持つことが知られています。免疫系における重要な標的であり、研究によって特定の疾患の発症リスクと関連していることが示されています。臨床的には、HLA型は臓器移植や疾患の診断・予後予測に利用されています。

出典:https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/000.911

HLA-DRB1遺伝子とは

HLA-DRB1遺伝子は、ヒト第6染色体短腕部に存在する主要組織適合抗原複合体(MHC)に属する遺伝子であり、免疫応答の制御に深く関与しています。この遺伝子は、関節リウマチや他の疾患と強い相関性を持つことが知られており、特定のHLA-DRB1型が特定の疾患と関連しています。例えば、関節リウマチではHLA-DRB104:05やHLA-DRB104:01が関連しています。この遺伝子は免疫系の重要な標的であり、特定の疾患の発症リスクと関連していることが研究で示されています。

参考特許明細書:
(11)【国際公開番号】WO2020/116567
(43)【国際公開日】令和2年6月11日(2020.6.11)【発行日】令和3年12月23日(2021.12.23)
(54)【発明の名称】関節リウマチ治療薬の奏効を予測する方法及びそれに用いるバイオマーカー

治療薬の選択とバイオマーカー

従来の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)から、生物学的DMARDs、最新のJAK阻害剤に至るまで、RAの治療オプションは多岐にわたります。バイオマーカーの利用は、これらの治療薬の中から最も効果的な薬剤を選択し、患者に合わせた治療計画を立てる上で不可欠です。特に、生物学的DMARDsやJAK阻害剤は高価で、特定の副作用のリスクを伴うため、効果が期待できる患者を正確に特定することが重要です。

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